第八回:無形資産取引の特定について②

今回は、「特定無形資産」について述べたいと思います。
特定無形資産は、英語「Hard-to-value- intangibles」から由来したもので、評価困難な無形資産と直訳することができます。つまり、前回記述した無形資産の中でも、とりわけ、価値の評価が困難で、かつ、類のないユニーク性を有しながら、非常に高い価値創造に貢献することから、多国籍企業グループ間の利益配分に大きな影響を与えるような無形資産を指しています。
巨額な収益を生み出す力があって、かつ、価値の評価が困難だからこそ、恣意性の高いと思われるグループ間の取引を通じる利益移転が生じやすく、その結果による税源浸食の度合も深刻になりがちです。
例えば、法人税率の高いA国にある親法人Pから法人税率の低い国BにあるPの子会社SにPの開発コストのみで譲渡されたPの所有していた無形資産がその譲渡後にSの商業化によって巨額の収益を生み出したケースは利益移転による税源浸食の定型的な例です。このケースでは、当初の譲渡価格が過少であったため、利益は法人税率の高いA国から法人税率の低いB国に移転され、国家間の税源浸食が生じてしまったことが明らかです。
従って、そのような税源浸食の深刻さから、OECDの加盟国である日本もBEPS行動計画を全面的に取り入れたOECDの移転価格ガイドライン(2017年版)に沿って令和元年の税改正により、その「特定無形資産」を対象とする無形資産に係る国外関連取引に対して、従来議論されていた「所得相応性基準」に相当する価格調整措置の導入に踏み切りました。
価格調整調整措置による移転価格の課税は、簡単に言えば、課税当局は納税者の取引後(通常税務申告後)に、その取引後に移転された無形資産の使用による収益の実績等を参考に推定した価格を独立企業間価格とみなし、その独立企業間価格と納税者が申告した当初の取引価格との差額を課税ベースに、納税者に対して追徴課税を行う課税方法で、実質上の推定課税です。
ただ、取引価格の算定の難しさによる利益配分の歪みの程度が一定基準以内に収まった場合または事前に予測利益等の確実性を十分考慮した文書化を通じて、課税当局に対して真実的かつ客観的な情報開示したと認められる場合は、上記価格調整措置の適用はないとされます。

次回は、無形資産に係る国外関連取引について述べたいと思います。


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2021年04月07日